桜が咲く頃に、私は
こんな話を誰が信じられるだろうか。


大学生の花子ですら、完全に信じてくれたわけではなかったし、むしろ別れる口実にそんな嘘まで出てきたと思われていてもおかしくないのだから。


「別に、信じてくれなくてもいいよ。それよりも私が気になってるのはその怪我だから。広瀬、誰かにいじめられてるの?」


隠していたことを全部吐き出したけど、痛々しい傷のせいでスッキリしていない。


今までの話は過去の話、これからが現在の話だ。


私が尋ねると、チラチラと友紀を気にしている様子で、困った表情を浮かべてため息をついた。


「これは……転んだだけだよ。いじめとは関係ない。話がそれだけなら、僕はもう行くよ」


明らかに、この話には触れてほしくなくて、早めに切り上げようとしているのがわかる。


広瀬は翠を押し退けると、教室の方に向かって歩いて行った。


「あ、あの……琥太朗くん、待って!」


チラリと私と翠の顔を見て、友紀もまた、広瀬の後を追い掛けて走り出した。


「……ありゃあ女だね。早春には悪いけど、話すのが遅かったみたいだ」


翠にそう言われて……何となくそうじゃないかなと思ってはいたけど信じたくなかった。


自業自得……そう自分に言い聞かせて平静を保とうとしたけど、心が潰されそうなくらいに苦しくて。


私の目から、涙が溢れた。
< 140 / 301 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop