桜が咲く頃に、私は
「仕方ないって。だってほら、最初に言ってただろ? いずれ広瀬の方から離れて行くってさ。その時が来ただけだよ。ね?」


慰められれば慰められるほど、今まで我慢していた涙が溢れてくる。


ボロボロと涙が床に落ち、私は今、とんでもない顔になっていると思う。


もうダメなんだとわかると、楽しかった広瀬との思い出が次々と浮かんで来て、頭から離れない。


どうして私はもっと広瀬を信じなかったのか、しっかりと話をしなかったのかと悔やんでばかり。


「もう。大丈夫? どうする? 広瀬のことは忘れて次に行く? 残り少ないんでしょ。生きられる日数」


優しい言葉を掛けられると、ますます胸が苦しくなる。


「ぜんっぜん、だいじょばない! 涙は止まんないし、胸が押し潰されるんじゃないかってくらい苦しいし! でも、放ってなんておけないよ! だって……好きになった人だもん!」


「……悲しいね。どんな状況だったとしても、私には早春と広瀬が上手く行く結末が見えなかったよ。あんたもさ、それはわかってたんでしょ?」


私があの日死ななければ、私があの日空とキスをしているのを見られなければ、私がしっかり広瀬に話をしていれば……。


きっと、私ではどの状況でも上手くは行かなかったんだ。


翠も私もそれはわかっていたんだ。
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