桜が咲く頃に、私は
「南山にはわかんないかな。いじめられる側の繊細な心と恐怖ってものがさ。良いか? いじめられっ子ってのは、逆らえばもっとやられるって恐怖心から、逆らうことはしないんだよ。誰かにチクったのがバレたら、もっと酷い目に遭うかもしれないだろ? それなら、今の方がマシだって我慢するんだよ。それに、そういう陰険なやつらは尻尾を出さない」


「流石は姫ちゃん。いじめっ子のくせにいじめられっ子の気持ちがわかってる!」


「それ褒めてんのかよ智美! でもま、これは本当だよ。広瀬に逆らえる力があるとは思えないし、あいつの性格だから余計なこと言ってエスカレートさせるかもね」


話を聞いていたら、私が受けたダメージなんてどうでもいいくらいに酷い。


深沢が、悲劇のヒロインぶった自己陶酔と言ったけど、本当にその通りだと思ってしまうよ。


今、広瀬は私なんかよりもずっとつらい状況の中にいるのかもしれないから。


「でも、それじゃあ現場を押さえることも難しいじゃない。いつそれがあるかもわからないし、ずっと広瀬を見張ってるわけにもいかないし……何より……」


チラリと私を見た翠は、以前私が言ったことを覚えているのだろう。


自分の力で何とかしなければ意味がないという言葉を。
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