桜が咲く頃に、私は
「広瀬のこと、まだ好きなのか。いくら早春が頑張っても、本人にその気がなかったらいつまでも変わらないぞ」


「……私はもう、広瀬に振られてるから。あいつ、新しい彼女がいるみたいでさ。だけど、だからって放ってなんておけない。それじゃあ安心して死ねないよ」


私の訴えを、空はどんな想いで聞いていたのか。


その顔は、寂しそうでもあり、少し嬉しそうでもあるように見えた。


「わかった。でも、話はキスの後で」


「うん」


私が頷くと、空の顔が近付いて来る。


鼻と鼻が触れ、重なった唇を迎えるように顔を上げて。


広瀬の中から完全に私が消えたのがわかって寂しかったのか、それとも、以前からわかっていた空の気持ちに甘えたかったのか。


今日の10秒は、いつもとは違う感情があったのは間違いない。


しばらくして日が変わり、また10秒間のキス。


空の余命が、まるで削られるように減って行く。


私を好きでいる限り、これは止められなくて。


悲しくて、私は涙を零した。


私「69」、空「37」。


唇を離すと、また壊れたギターを見てポツリ。


「あいつら、俺がバンドをやってた時に、たまにライブハウスに来てたやつらだ。マナーが悪くて、よく他の客とトラブルになってた」
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