桜が咲く頃に、私は
病室に着くと四人部屋で、広瀬の他にも二人いるようで、あまり大きな声で話すと迷惑になるかなと思いながら中に入った。


広瀬のベッドは窓際で、そこには、顔に怪我の処置がされ、首にカラーを巻いた痛々しい姿の広瀬がいた。


「こ、琥太朗くん……」


友紀が呟いてベッドに駆け寄ると、その声に気付いたのか、広瀬は目を開けて友紀を見た。


と、同時に驚いた様子で「ひっ」と小さく悲鳴を上げて身体を震わせたのだ。


「あ、ああ……ごめん、友紀ちゃんか。来てくれたんだね。入院なんて大袈裟だよね。ただのかすり傷なのに」


なんて、広瀬は強がって言っているけど、その程度で入院なんてするはずがない。


「広瀬。本当にかすり傷なの?」


私が尋ねて、ようやく存在に気付いたのか、驚いた表情を浮かべた。


「な、なんで……桜井さんまで……」


「違うの琥太朗くん。桜井さんが私を連れて来てくれたの。教室で震えていた私を、琥太朗くんの所に行こうって」


友紀が話している間に、布団を捲ってみると……左足にギプス。


いや、そこだけではなくて右腕にも。


「……何があったか、話して」


私がそう尋ねても、広瀬は怯えたように目をフラフラと泳がせるだけだった。
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