桜が咲く頃に、私は
「お、覚えて……ないんだ。何が起こったのかわからなくて……」


事故のショックか、それとも覚えてないことにしたいのかわからないけど、広瀬にとってはとんでもないトラウマになったようだ。


無理に聞き出そうとしてもダメ……だろうな。


広瀬の性格に加え、この怯えようじゃ。


だけど、怯えているからこそ、確信のようなものがある。


「今尾と上野にやられたのか。あいつらが車に向かって広瀬を蹴飛ばしたんじゃないの?」


私がそう言うと、広瀬は怯えた目を私に向けて。


そうだとも、違うとも言わずに、フラフラと目が泳ぐ。


広瀬と付き合う前までの私は、いじめなんてバカバカしいと思っていて、いじめこそしてはいなかった。


ただ、ぼんやりと人を見ていることが多かったから、嘘をついているやつ、何かに怯えているやつ、そんなやつらを食い物にしようとするやつの表情はわかるつもりだ。


二人の名前を出した時の、広瀬の顔は……怖くて隠そうとしている顔だ。


「ごめん、なんでもない。あんた、広瀬の彼女なんでしょ。だったらついててやってよ。私は学校に戻るからさ」


「え、あ……うん。桜井さん、ありがとう」


「礼なんかいいって。でも、ただ泣いてるだけじゃなくて、動かなきゃダメなこともあるんだよ? 覚えておいた方がいいよ」


そう言って私は病院を出た。
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