桜が咲く頃に、私は

私の言葉の後、一瞬沈黙が訪れた。


ほんの僅かに……言葉に込められた負の感情を読み取ったのか、夢ちゃんが口を開いた。


「……変なことしないよね？ 嫌だよ？ お姉ちゃんがそんな酷いことをするようなやつに関わるなんて。お願いだからそんな人達に手を出すとかしないで」


不安そうに私を見る夢ちゃんに、私はどう返事をすればいいんだろう。


どんな返事をしても、この状況だと夢ちゃんを心配させてしまうのは間違いない。


なんて、即答出来ないことが私の答えだと読み取ったのだろう。


大きなため息をついて箸を置いた夢ちゃん。


「……私は、夢ちゃんが思ってるような人間じゃないよ。ここに来るまでは、食事と宿の為に言えないようなこともしてたんだよ。でもね、そんな私にも許せないやつがいるんだ」


言葉を選びながら、でも、伝わるように。


強く、真っ直ぐ目を見詰めて言った。


「……許せなくても、お姉ちゃんは何もしないって約束して。復讐すれば気は晴れるかもしれないし、広瀬さんは喜ぶかもしれないけど……私は不安だよ。約束が守れないならこの家から……」


そこまで言った時、空が夢ちゃんの肩を掴んで首を横に振った。


「おい、早春は俺が泊めてるんだ。夢がそういうことを決めるんじゃない！」


「だって！ 広瀬さんがそんな目に遭ったなら……お姉ちゃんだってそうなるかもしれないじゃない！ そんな姿、私は見たくないよ！」