桜が咲く頃に、私は
その感覚がきっと普通なんだろうな。


私は……普通とは感覚がズレてるとよく言われるし、そもそも生きている意味がわからないと言ってるくらいだからそれは自覚しているつもりだ。


「まあ……翠がそう言うなら気を付けるよ。広瀬と喧嘩になるとか面倒くさそうだしさ」


「お、早春にしては珍しく素直じゃね? なんだかんだあんたも実は広瀬が好きだったり?」


「そんなんじゃないっての。んで? 今日の分のキスはどうする? 今やっちゃう?」


そう尋ねると天川はビクッと身体を震わせて私に視線を向けた。


「全然わかってなかったわ……誰が見てるかわからないんだから気を付けろっつってんの! なあ、天川!」


「え? あ、ああ……そ、そうだな。早めに……済ませておくか」


ぼんやりしていたのか、翠との会話が全く噛み合ってない。


「ダメだこりゃ」


呆れた様子でテーブルの上のピクルスを食べた翠をよそに、私は身体を天川の方に向けて。


「よし、行くよ」


そう言って、天川に顔を近付けて唇を重ねた。


ただの作業……一度死んだ私にとっては、こんなキスくらいどうということはない。


なんの感情もなく、機械的にするキスでも……一瞬広瀬の顔が思い浮かんで、チクリと胸が痛くなったのを覚えている。


桜が咲く頃に、私達は……また死ぬんだ。


そう考えると、タイムリミットはそれほど長くないと思いながら、10秒を待った。
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