桜が咲く頃に、私は

「さすがにヤバいって。広瀬をはねた車は逃げるし、治療費は取れないし、もしも広瀬がチクッたら俺ら退学だぜ？ 警察にも捕まるかもしれねぇ……」


「ビ、ビビんなよ。前にも同じことがあったろ？ 古田がミスって病院送りになった時も、俺達のことは何も言わなかったじゃねえか。なぁに、広瀬もビビって言えねぇよ。何の連絡もないのがその証拠だ」


半笑いでドリンクを飲んでいる今尾と、挙動不審気味な上野。


私と空は一直線に二人に近付いて、正面に立った。


「お前ら、ちょっと話があるから表出ろよ。広瀬の件だ。ここまで言えばわかるよな？」


大音量の中で、二人の耳元まで顔を近付けて大声を出すと、驚いた表情を浮かべて私を見た。


「さ、桜井!? お、お前……別れたんじゃなかったのかよ！」


「別れたから広瀬に手を出したってのかよクソ野郎！」


私がそう叫ぶと、二人は私を突き飛ばして出口へと走り出した。


空に支えられて転倒はしなかったものの、二人はその隙に客を掻き分けて逃げる。


「外だ、行くぞ早春！」


二人の後を追って、空と店の外に出ると、もう二人は階段の上に。


「逃がすかよ！ 肉の壁！ 肉の壁！」


だけど、深沢達が逃げ道を塞いで、お腹の肉に弾かれた上野がバランスを崩して階段を転がり落ちて来たのだ。