桜が咲く頃に、私は
「危ねぇな。階段は走るなよ。踏み外しても知らねぇからな」


そう言ってお兄さんは、売り上げの入った手提げ金庫を持ち上げて、転がり落ちて来た上野の顔を踏み付けた。


その一撃で気を失ったのか、ピクピクと痙攣する上野。


「あらら。慌てるから」


お兄さんは何事もなかったかのようにタバコの煙を吐き出して、私達に階段の上を指差して見せた。


「お、おま、お前らっ! 邪魔するなクソがっ!」


そこには、翠や深沢達に道を塞がれて追い詰められた今尾が、折りたたみナイフを取り出して振り回している姿が。


「あ、あぶねっ! そんなもん振り回すんじゃねぇよ! 人を刺す度胸もないくせによ!」


深沢が煽り、さらに逆上し始める今尾。


ナイフは予想外……だけど、その行動自体は予想の内。


バッグの中からスタンガンを取り出して、階段を駆け上がった。


道路では、翠達が距離を取って今尾を囲っているけど、その今尾は震えていて、目もフラフラと泳いでいる。


追い詰められた人間は、何をするかわからないから怖い。


「今尾、お前と上野が広瀬を突き飛ばして車にぶつけた。それで間違いないのか?」


スタンガンを今尾に向け、蔑むような目を向けた。
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