桜が咲く頃に、私は
本当にこんなやつの為に、広瀬が入院しなければならなくなったかと思うと悲しくなって来る。


こういうクズはどこにでもいると思ってたけど、まさかここまでとは。


いつの間にか野次馬が集まって来て、私達を取り囲むように人集りが出来始めていた。


それに今尾も気付いて、逃げられないと判断したのか、その目が私に向いて。


「テメェは広瀬と別れたんだろうが! 未練がましく周りをうろうろするんじゃねぇよ!」


ナイフを握り締めて駆け出したのだ。


怖い目には何度も遭ったことはあるけど、ナイフは初めてで身体が強ばる。


避けなければまずいのに、今尾の言葉で一瞬反応が遅れて。


ナイフが迫る。


でも……そんな私の前に割り込んで来た人影。


ドンッという衝撃が、その人影を通して私にも伝わる。


割り込んだのは……空だった。


「え……嘘」


一瞬何が起こったのかわからなくて、頭が真っ白になったけど……空はすかさず壊れたギターを振り上げて、今尾に向けてフルスイングしたのだ。


鈍い音と共に、地面に倒れ込んだ今尾。


そしてナイフは……空に刺さったと思い込んでいたナイフは、ギターケースに突き刺さっていた。
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