桜が咲く頃に、私は
「お前がどう思って何をしていようと勝手だけど。俺の女に刃物向けたのは許せることじゃないよね」


静かに、でも怒っているのがわかる言葉を今尾に吐き捨てる空。


倒れた今尾は、余程痛かったのか地面を転がって。


「痛てぇっ! 痛てぇよ! お前、お前だ! 絶対に許さねぇ! 傷害罪で訴えてやるからな! ふざけんなちくしょう!」


涙を浮かべながら、自分がしたことも忘れて叫ぶ今尾に、空が拳を握り締めて近寄った時だった。


カラカラカラ……。


何かが地面を擦るような音が、ライブハウスの階段の方から聞こえて来た。


ゆっくりと姿を見せたのは、受け付けのお兄さん。


「やめときなよ空。そんなガキ殴ったって、お前が損するだけだよ? それに……少年法だったっけ? ボクちゃん」


鉄パイプを引きずりながら、地面に転がる今尾に近付いて。


「お、俺を助けろおっさん! 客が殴られてんだぞ! 何とかしろよ!」


高圧的な今尾に、お兄さんの顔が見る見る変わって行った。


「いいかボクちゃん。俺は少年法なんて知らねぇし、自分から大人の世界に足を踏み入れたなら、子供扱いしてもらえると思うんじゃねぇよ。うちに来て酒飲んでるのも知ってるし、タバコも吸ってんだろ? ご丁寧に偽造免許証まで持ちやがってよ。テメェらの都合のせいで、健全にやってるうちが危なくなっちまうんだよ」


鉄パイプが振り下ろされ、地面に叩き付けられて、今尾は観念したようだ。
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