桜が咲く頃に、私は
背中を向けていた翠が振り返り、ボロボロと涙を流している顔を向けた。


と、同時に私に抱き付いて、翠とは思えないほど感情的に、声を上げて泣き出したのだ。


「早春と離れたくないよ! ずっと友達でいたいよ! 私を置いていかないでよ! やだよやだよ、なんでこんな時までこんな言葉遣いなんだよぉ! 全部広瀬のせいだ! 広瀬が早春を優しくしたから、その言葉遣いが私にまでうつったんだ!」


「そうだね。ちょっとだけ、優しくなったかもね。いつも私といてくれてありがとう」


翠の背中に腕を回して、今までのお礼をするようにギュッと抱き締めた。


目を閉じて、頭に頬を寄せて。


今となっては、何も考えずに翠とダラダラ過ごした時間さえ、愛おしく感じる。


その時は無駄だ無駄だと思っていた何気ない時間でさえも、思い返せば輝いていた友達との時間。


「まだ死ぬなんて許さないから! 精一杯、本当に最期の1秒まで後悔がないように生きなきゃ、私は許さないんだから!」


「やめてよ翠。幸せを感じたら、余命が減っちゃうんだよ? だから……この話は一旦おしまい。ご飯食べよ?」


私は……良い人達に囲まれていたんだな。


家族に恵まれなくて腐っていたけど、友達には恵まれていたんだなって、心からそう思えた。
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