桜が咲く頃に、私は
そうは言うけど、私はそんな優しい選択が出来ていたのかな。


こういうことを考える度に、広瀬のことを思い出す。


もしも告白された日、私が広瀬と付き合わなければ。


夢ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行った日、あんな場所で空とキスしなければ。


すぐに追い掛けていれば……なんて。


全然優しくなんてない選択を繰り返して来たとさえ思ってしまうよ。


そんな話をしながら到着した、お父さんが住んでいる町。


海と山に囲まれた小さな町で、毎年お盆には来ていた懐かしい場所。


冷たく、乾いた空気が肺を満たす。


お父さんに会うのが怖くて、空の手を離さずに家まで歩いて……玄関前までやって来た。


「どうした? ここまでが限界なら、無理はしなくてもいいんだぞ? 家にいるかどうかもわからないし、会ってももしかしたら……」


私が嫌な思いをするかもしれないと心配してくれているんだろうな。


大きく、長い深呼吸。


心地良い空気を沢山取り込んで、私はインターホンを押した。


ピンポーンと音が聞こえて、家の中からこちらに向かってくる足音が聞こえる。


心臓がドキドキと、その足音が近付くにつれて大きくなるのがわかる。


口の中が渇いて、今すぐにでもここから逃げ出したいと思ってしまう緊張感。


そして、ドアがゆっくりと開かれた。


< 218 / 301 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop