桜が咲く頃に、私は
「早春……わがままばかりでどうしようもないと嘆いたこともあったが……見違えたよ。きっと素晴らしい出会いがあって、素晴らしい経験を積んできたんだろうな」


嬉しそうにお父さんはそう言うけど……ごめんね。


多分、私が見違えるほどに変われたんだとしたら、それは死を経験したから。


生き返った後の人生を、無駄に過ごしたくなかったから。


何かを成したわけじゃないけど、死んだ後に「私は必死に生きた」と胸を張りたかったから。


どうせ死ぬからとか、今やらないと二度とやることはないって思いが後押ししたことは沢山ある。


私自身はそれほど変わってなくて、状況と考え方が変わっただけなんだよね。


「空くん。ありがとう。早春を連れて来てくれて。この子の性格だと、私と一緒に暮らそうと言っても聞かないだろうから。だから娘を……よろしくお願いします」


お父さんが空に深々と頭を下げた。


「……いえ。ここに来ることを決めたのは早春です。俺はそれを見守っていただけなので。でも、良かった。早春には頼れる人がいないと思っていましたから。そうじゃないと知れただけでも、俺も嬉しいです」


それを返すように、空もまた深々と頭を下げて。


そこからは、私達は笑顔で話が出来たと思う。


今までろくに口も聞かなかった期間を取り戻すかのように、楽しく。
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