桜が咲く頃に、私は
「……桜井早春。永遠にお前を愛してる。たとえ身体が無くなったとしても、いつも早春のそばにいると誓うよ」


改まって、こっちが恥ずかしくなってしまうようなセリフの後、私の左手を取り……ポケットから取り出した物を、そっと薬指にはめた。


飾り気のない、シンプルな指輪。


「え……な、なに……」


その状況が上手く飲み込めない私を、ギュッと抱き締める。


「死んでしまう前に、形だけでも早春と繋がりたくて。結婚したいくらいに好きなのに、お前まだ結婚出来ないんだもんな」


左手の指輪を見ながら、胸が締め付けられるような思いに襲われた。


私の誕生日は2月10日で、どう頑張ったって誕生日が来る前に私は死んでしまう。


それでも、こうして私を大切に思ってくれて、指輪を用意してくれたのが嬉しくて。


「32」になってしまった。


「ごめんね……まだ16歳じゃなくて」


「大丈夫だから。早春、俺からのメリークリスマス」


同じ指輪をはめた空の左手が、私の左手を取って。


ゆっくりと近付く唇を重ねて……私は今までに感じたことのない幸せに包まれた。


長い、長いキス。


永遠と思えるほどに長い時間、空の体温を感じて。


そして、時計の針が0時を指した時だった。







空が、まるで糸が切れた操り人形のように、力なく地面に倒れてしまったのだ。
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