桜が咲く頃に、私は
朝。


いつの間にか眠っていた私は、いつもなら賑やかなこの部屋の静けさに、言いようのない寂しさを感じていた。


空がいない。


夢ちゃんもいない。


昨晩は主に使われなかった布団を、隣の部屋に片付けようと、ほとんど無意識で布団を畳み始める。


部屋の中を見回すと、どこを見ても空の思い出がある。


何気なく過ごして来た毎日も、今思い返せば大切なものだったんだ。


私はそんな日々を、大事に過ごせて来ただろうか。


「空……」


声に出すと涙が出て来る。


最初は勝手で嫌なやつって思ってたのに、少しずつ関係性が変わって行って。


いつの間にか、私の大切な人になっていた。


涙を拭い、布団を持ち上げると……畳の上に紙があった。


「これ……」


布団を横に置き、折り畳まれた紙を拾い上げると、そこには「早春へ」と書いてあった。


……空だ。


ここにあるということは、昨日、家を出る前に書いて隠したのだろうか。


何を思って私に命を渡したのか、あの時何を考えていたのかがわかるかもしれない。


そう考えるといてもたってもいられなくなり、紙を開いてみると……そこには、空の想いが綴られていた。
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