桜が咲く頃に、私は
「早春、起きてたんだね。元気を出せとは言えないけど、しっかりしな」


横になっている私を見下ろして、手を差し伸べてくれたのは……翠。


冬休みだというのに制服姿で。


「何……その格好。今日学校だっけ?」


助けを求めるようにその手を掴むと、グイッと引いて私を立ち上がらせる。


「何言ってんの。行くんだよ! 天川とのお別れに! 早春が見送ってあげなかったらどうすんのさ!」


そう言われても、おじさんの家がどこかわからないし、死んだ後はあの雲が広がる場所に行くって知ってるんだよ私は。


空の身体はそこにあっても、魂は別の場所にいる。


なんて考えてしまっている。


「私が夢ちゃんに連絡を取って場所を聞くから! 早春は制服に着替えて私に付いてくれば良いんだよ! ほら、早く着替えた着替えた!」


「なんで制服……」


「喪服なんて持ってないでしょうが! わけわからない所に突っ込んでないで、早く着替えなよ!」


強引に私の服を剥ぎ取り、ハンガーにかかっている制服に着替えさせる翠。


こんなに熱い性格だったっけ……と思いながら着替えをしていたけど、翠が今にも泣きそうなのを我慢していることに気付いた。


翠もまた、悲しみに耐えているんだって。
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