桜が咲く頃に、私は
廊下を歩き、隣の棟の一番上。


屋上に出る手前の空間で、階段に腰を下ろして昼食にする。


「いやあ、深沢のあの顔見た? 『ちょっ! なになに! ブヒッブヒーッ!』って、本当にブヒブヒ言うとか腹いてーわ」


翠がその時のことを思い出しては大笑い。


お弁当をまともに食べられないくらいに笑っている。


「あんた笑い過ぎだって。広瀬は大丈夫? てかあんた、お金払ってもらってないんでしょ?」


私が尋ねると広瀬は口ごもって、小さく頷いた。


「な、なんだろう……そういうつもりはないんですけど、あんな風に強く言われると反論出来なくて……それで、気付いたらいつの間にか」


「ふーん。情けないね。嫌なら嫌って言えば良いだけなのにさ」


「すみません……」


俯いて、お弁当を食べる手も止めて、寂しそうな目の広瀬。


こんなことでいちいち落ち込んでて、今までどうやって生きて来たんだろう。


翠も呆れ顔で首を横に振っているよ。


「てかさ、広瀬は早春のどこが好きなわけ? 深沢よりズケズケ言いたいこと言うし、無神経だし生きる意味がわかってない空っぽ人間なんだよ? 顔は可愛いけどねぇ」


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