桜が咲く頃に、私は
本当にこの子は、しっかりしているというか子供っぽくないというか。


空の頬に手を当てると、すっかり体温がなくなった冷たい感覚が伝わって来る。


昨日までは温かくて、優しく私を包み込んでくれていたのに、今はその抜け殻が横たわっているようだった。


私が死んだ時もそうだっただろうけど、今頃空はあの世界にいるんだろうな。


こっちで誰が泣いているとか、悲しんでいるとか知りもせずに、長い階段を上っているに違いない。


それとももう、天国にいるのか。


残された人達が出来ることは、死んだ人との思い出の整理なんだろう。


こうして、動かず、喋らなくなったことを少しずつ受け入れて行くんだ。


空の亡骸を目の前にした時は……不思議と涙は出なかった。


死んでしまった時に一度泣いて、動かなくなった空に慣れる。


そして次は、遺体が焼かれる時に涙するんだろうな。


それが故人との永遠の別れ。


魂の入れ物だった肉体も、それで消滅してしまうから。


少しずつ、涙を流して死を受け入れて行くんだ。


「お通夜は今日の夜で、お葬式は明日のお昼。なんか不思議なんだけど、葬儀場とかの準備が凄く早かったの。まるでお兄ちゃんが昨日死ぬのがわかっていたみたいに」


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