桜が咲く頃に、私は
いつから、昨日死ぬと決めていたのだろう。


いや、きっとそうじゃない。


空にとって、誕生日が終わったらどれだけ余命が残っていても私に全部渡すつもりだったんだ。


もしも私の誕生日に届かなくなりそうだったら、それよりも早くにそうしていただろう。


自分の死んだ後の用意も済ませてるなんてさ。


本当に、人に迷惑を掛けないようにって気を遣っていたんだね。


でもバカだよ。


そんなの気にしなくても良かったのに。


何もすることのない夢ちゃんは、ずっと空のことを思い出しては泣くことになるってわからなかったのかな。


「……お姉ちゃん、お願い。翠さんも、お葬式が終わるまで、私と一緒にいてくれないかな。おじちゃんとおばちゃんには私から伝えるから。お願い。お兄ちゃんとしっかりお別れが出来るまで、いてほしいの」


それは、夢ちゃんの精一杯のわがまま。


家族がいなくなった夢ちゃんがこれから先、どんな生活を送るのかは私にはわからない。


もしかすると、あのアパートも引き払って、このおじさんの家にお世話になるのかなと考えてしまう。


もう、アパートに空が帰って来ることはないのだから。


「うん、いいよ」


私が言える言葉なんて、それくらいしか思い浮かばなかった。
< 243 / 301 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop