桜が咲く頃に、私は
深夜の街を、夢ちゃんと手を繋いで歩く。


上着を羽織っただけで、寒さが身に沁みたけど、これから死ぬというのなら関係はない。


「死んだら……お兄ちゃんと会えるのかな」


「うん。実はね、私は知ってるんだ。死んだ人は、光が溢れる雲の上に行くんだよ。そこで天使に会って、天国に続く階段を上るの。空にだって会えるよ」


クスッと笑って、私の手をギュッと握り締めた夢ちゃん。


「まるで見て来たみたいだね。そっか。それなら死ぬのも怖くないね。早く……もう一度一緒に暮らしたいな」


「そうだよ。私と空は、そういう世界を見て来たんだ。だからきっと、待っててくれてる」


そんな話をしながらやって来た橋の上。


空が私のスタンガンを捨てた場所。


この冬場なら、川に飛び込めば死ねるかもしれないな。


「ここに……しようか」


水面までそれなりの高さがある橋。


私がそう言うと、夢ちゃんの手がスルリと離れた。


「……今から死ぬんだね。私達」


「そうだね。怖い?」


橋の欄干(らんかん)に手をかけて尋ねると、夢ちゃんは夜空を見上げていた。


私は今、この瞬間もまだ迷っている。


本当に……私は優しい選択をしているのかと。
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