桜が咲く頃に、私は
自分で空っぽと言う分にはその通りだから良いけど、人に言われるとなんか腹が立つな。


だから、翠のすねの皮を思い切りつねってやった。


「いってーわ! 皮が千切れたらどうすんだよ!」


そんな文句も無視して、広瀬をじっと見詰める。


「あ、いや……なんて言うかその……桜井さんは僕にないものを全部持ってるじゃないですか。自分に自信があるというか。物怖じしないというか……そんな、堂々としている桜井さんが、気付いたら好きになってました。あと、いつも寂しそうな顔をしてるのも、綺麗だなって……キャッ!」


「へぇへぇ、ごちそうさん。てか、ただ命知らずなだけだよこいつ。そんなとこに惚れるなんて、相当変わり者だよねあんた」


笑いながらそう言った翠のすねをもう一度つねって。


「だからいてーっての!」


バシッと頭を叩かれたけど、私は髪を整えて小さなため息をついた。


「そっか。そんな風に思ってたんだね。私、広瀬のこと何も知らないよ……だからさ、教えてよ。広瀬のこと」


ちょっと恥ずかしかったけど、階段の一番上で広瀬の方を向いて正座して。


「桜井早春。誕生日は2月10日で、何が好きかとか、何のために生きるかとかがわかってない。だから、広瀬と付き合うことで何かが変わるかなって思ったんだ」
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