桜が咲く頃に、私は
「さ、桜井さん! あ、あの……ちょっと話があるんだけど……」


そこにいたのは広瀬。


まだギプスが取れない身体で、必死に追い掛けて来たのだろう。


私達を見上げて、今にも泣きそうな顔を向けていた。


「おやおや、こんな時に元彼が一体何の用なのかね? 早春は今、悲しい過去から一歩踏み出そうとしてるのに、また過去に引き戻そうとでも思ってんのかね? そうだとしたら……私は許さねぇよ?」


翠が広瀬に凄んで見せると、それに少しビビったのか口ごもって。


だけど強引に押し出すように、次の言葉を吐き出した。


「南山さんや深沢さんが話してるのを聞いて! 天川さんが亡くなったって。もしかして、前に言っていたことって本当だったの? 一度死んで、余命を二人で分けて生き返ったって……いや、でも……それにしては」


広瀬は答えを求めている。


でも、その問いの答えなんて、随分前に私が伝えたよ。


「それにしては、まだ私が死んでないって? 余命を分けたんだから、死ぬのも同じだろうって? 幸せを感じたら余命が減るって条件だったんだよ。それにね……空が残りの余命を全部私にくれた。だから死んだんだよ」


私がそう言っても、まだ広瀬は信じられないといった様子で私を見ていた。
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