桜が咲く頃に、私は
信じてもらおうとは思わない。


私と広瀬が別れたのは、どうしようもないことだった。


家に帰ってからすれば良かったのに、あんな場所でキスした私が悪いのは当然として、広瀬が私の話を信じてくれなかったら、結局は上手く行くはずがないんだ。


「別に……信じなくてもいいよ」


翠の手を取って呟いた私は、階段を下り始めた。


戸惑っている広瀬の横を通り過ぎながら。


「信じてくれないついでに言うけど……私、2月10日になったら死ぬんだ。私が死んでからでいいよ。信じるのは」


それだけ言って、私と翠はその場を後にした。


広瀬は追い掛けて来るでもなく、ただその場で立ち尽くしていた。


どこに行くわけでもなく、ただ学校の廊下を歩く。


「ちょっと早春。どこに行くわけ!? せっかく久しぶりにあの場所でゆっくりしようと思ったのに」


「翠が言ったんでしょ。死ぬ気で生きろって。だったら、あの場所から抜け出さなきゃ。あそこは居心地が良いけど、それに甘えちゃうからさ。嘘でも空元気でも、とりあえずまず一歩」


何か考えがあったわけではない。


ただ、翠に言われた言葉が私の背中を押してくれた。


いや、そんな生易しいものじゃないかな。


思いっ切り殴られたから、よろめいて動いてしまった感じだ。


でも翠には感謝してる。


こんな私に正面からぶつかって来てくれたから。
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