桜が咲く頃に、私は
その後、夢ちゃんは私の布団に潜り込んで来たものの、背中合わせだった。


信じる気持ちと信じない気持ち、甘えたい想いと拒絶したい想いが混ざり合ってのこの状態なのだろう。


「……もしも、お姉ちゃんの話が本当だとしたら、今、お姉ちゃんの中にはお兄ちゃんの命があるってことだよね。信じてるわけじゃないけど」


「うん。特別にそうだって感じるわけじゃないけど、私はそう思ってる」


短い会話。


夢ちゃんが何かを願うように呟いたその言葉は、私にはわからない答えを求めているようだった。


「上手く言えないけどさ。お姉ちゃんの中にお兄ちゃんが生きてて。私の中にもお兄ちゃんがいる。これはきっと、何年経っても消えなくて、私が生きてる限りずっと忘れないと思うの。わかるかな。だからお兄ちゃんの想いは私と一緒に生き続けるの」


……夢ちゃんは優しい。


空は私に「優しい選択をしろ」と言ったけど、私よりもずっと優しくて、そんな夢ちゃんに何度も救われている。


「私が……私が死んだら、夢ちゃんの心の隅に住ませてもらっても良いかな。そしたら、夢ちゃんと一緒にずっと生きられると思うから」


「やだ。お姉ちゃんは死なないから。だから私の中には住めません。残念でした」


クスクスと笑ってそう言った夢ちゃんは、身体の向きを変えて私の背後から抱きついた。


いつものように、何事もなく。


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