桜が咲く頃に、私は
「お、おいおい、あんたそれでも母親かよ! 早春はそれでもあんたを……」


あまりにも勝手な言い分に、翠が反論しようとしたけど、私は首を横に振ってそれを止めた。


何かを期待していたわけじゃないけど、まさかここまでとは思わなかったよ。


「もういい。行こう翠。これ以上いても腹立つだけだから」


「え、マジ!? 文句の一つも言わずに帰るつもり!?」


私がそう言った時の、お母さんの冷たい目は忘れない。


早く帰れと言わんばかりの、私を邪魔者扱いする目。


空にスタンガンを捨ててもらっていて良かった。


あれがあったら、今頃使っていたかもしれないから。


「全く。養育費をもらってたから今まで我慢してたけど、二度と帰って来るんじゃないよ。本当、あの頃の私に言ってやりたいわ。今すぐ堕ろせ。産んで得することなんて何もないってね」


クスクスと笑いながらそう言ったお母さんの声を背中に聞いて。


もう、何を言ってもこの人はダメだと思った。


いや、最初からこの人は親になってはいけなかったんだ。


こんなことに翠を付き合わせてしまって申し訳ない。


ただただ、気分が悪くなっただけだ。


「あ、そうだ、あんた今お金持ってない?」


どういう神経でその質問をしているのか。


私は振り返ることもなく、中指を立てて見せた。
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