桜が咲く頃に、私は
「もう、ほらほら、怒らないでよ正子ちゃん。二人が喧嘩したままプレイなんて嫌だよ? いや、でもそれはそれで興奮するかもしれないな……」


「この状況でまだそんなこと言ってんのこの男……ないわぁ……本当にないわぁ」


そう言いながら、私のベッドを使う二人の写真をスマホで撮る翠。


この母親がいたから家族が壊れて、私とお父さんは家を出た。


もしも、私の人生に心残りがあるとすれば、この母親に文句の一つも言えずに逃げ出したことだ。


すうっと大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出して、私は左手の甲をお母さんに見せた。


「私は……私のことを一生愛してくれて、私も一生を捧げられる人と出会えた。人のことを道具か何かに思ってるあんたには、私の気持ちなんてわからないだろうけど」


「そんな安物の指輪で何言ってんのあんた。それで簡単に股開くなんて、随分安い女に育ったもんだね。どうせ飽きたら捨てられる! その時になって泣き付いたって私は知らないからね!」


これが本当に母娘の会話なのだろうか。


私自身がわからなくなってしまう。


怒る母娘に、ドン引きする翠、そして何かを期待している様子のチャラい男。


一刻も早くこの場を離れたくて、私はお母さんに言うべき、宙を漂う言葉を掻き集めた。
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