桜が咲く頃に、私は
「178」
トイレの鏡に映るその文字を見ながら、触ってみようと手を伸ばすけど、当然触れられるはずもなく空を切る。
幸せを感じたら数字が減ってしまうというのは厄介だな。
放課後になり、広瀬と別れて今日のこの後のことを考える。
「いやぁ、久し振りに来たわ。もう、すっげーの! 流れるか心配したけど……って、早春あんたなにやってんの? ハエでもいんの?」
「別に? 翠のすっげーのが臭過ぎてここまで漂って来てるんだよ」
「あー、殺人級の臭いだったから私も危うく死にそう……って、そんなわけねーわ! ここまで臭いが来るかっての!」
パシッと私の頭を叩いて、半笑いで水道の蛇口を捻る翠に、私も思わず笑ってトイレを出ようとしたけど……あれ?
「ちょっと、あんた手を洗ってないのに叩いたでしょ! 最悪なんだけど……」
「気にすんなって。それより広瀬とはどうなったんだよ。チューくらいしたわけ? 二時間半も一緒にいてさ」
二時間半……か。
その間、お互いに自己紹介みたいな話しかしてなかったな。
後は……まあ、広瀬がどれくらい私のことを好きかってことくらい?
思い出すだけでもちょっと照れてしまう。