桜が咲く頃に、私は
私が笑って言うと、翠は不思議そうに首を傾げる。


「出来てないこと? 今更言う? それって今日中に出来ることなの? なんでも言いなよ、手伝うからさ」


翠はいつも、私と一緒にいてくれて、同じ時を過ごしてくれていた。


一番私のことを心配してくれて、一番私の為に泣いてくれた大切な友達。


だから……今更長い言葉はいらない。


私は翠の背中から腕を回して、ギュッと抱き締めて頬を寄せると、今までの思いを込めて囁いた。



「翠……友達でいてくれてありがとう」



その言葉で伝わるはずだ。


「ねえ、ちょ、ちょっと……やめてよ。そんなさ、これでお別れみたいな……」


私の手を握って、少し震えている様子の翠。


顔をくしゃくしゃにして振り返って、私に抱きついた。


「嫌だぁ……嫌だよ早春。今日でお別れなんて嘘って言ってよ! もっとあんたと一緒にいたいのに……なんでよぉ……」


「泣かないでよ翠。私は……泣かずにいようと思ったのに。あんたに泣かれると私も泣いちゃうよ」


大泣きする翠のせいで、私の胸にも込み上げるものが。


気持ちが揺らいじゃうよ……せっかく覚悟が出来たのに。


死にたくないって思っちゃうじゃない。
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