桜が咲く頃に、私は
色んな人に感謝を伝えて、ゆっくりと私の命が削られて行く。


残り……8時間。


出来るだけ普通に、スーッと消えるように命を終わらせたいと思っていたけど。


「今日は私と夢ちゃんで作るからね。早春は何を食べたいか言うだけでいいよ」


なんて翠に言われて、嫌でも特別感が出てしまうよ。


私が台所に立たないことがないから、二人が料理を作っているのを見てても落ち着かない。


作り始めたばかりだし、まだまだ時間は掛かるから。


「ただ待ってるだけって退屈だな」


そう呟きながらも、私は空の写真の前まで移動して、それを指で撫でた。


今なら、私に余命を全部くれた日の、空の気持ちがわかるよ。


私は誰かの為に命を失うわけじゃないけどさ。


今日死ぬんだって気持ちはわかる。


怖くて、不安で、悲しくて寂しくて辛くて……今すぐにでもどこかに逃げ出したくて、どうして私は死ななきゃならないんだと泣き叫びたくなる。


こんな苦しさの中で空は……私に命をくれたんだね。


私は……空のように、誰かに何かを遺すことは出来たかな。


夢ちゃんがいつも勉強をしている台の前に座って、フォトフレームに飾られている三人の写真を見ながら、私はそこに置かれていた夢ちゃんのルーズリーフを一枚取り出した。
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