桜が咲く頃に、私は
「それは……ないかな」


「ふーん。ま、好みってもんがあっからね。それにあんた、恋愛には奥手というか、避けてるみたいだし。やっぱ親のせいだったりする?」


本っ当に翠は、踏み込んでほしくない部分にズケズケと土足で踏み込んで、なんならそこで横になってスナック菓子を食べるくらい図々しいんだよね。


でもそれが、逆に良いというか。


変に気を遣われてないことがわかるから、翠は好きなんだよね。


「そうかもね。お父さんは女作って出て行くし、お母さんはお母さんで育児放棄で男と遊びまくってるし。そりゃあこんな不良少女になっちゃうでしょ。親になったやつが、恋愛なんかするから壊れるんだよ」


トイレを出て、窓の外を見ながら廊下を歩いていると……その後ろ姿に目が止まった。


家に帰ろうとしている生徒達の中で、少し背の低い男の子。


それが広瀬だと言うことはすぐにわかった。


しばらく見ていると、広瀬に駆け寄って背中に飛び蹴りを食らわせて笑う男子生徒の姿。


蹴られて地面に転がり、慌てて立ち上がるのを見て、男子生徒三人くらいがバカにしたように大笑いして、校門の方に歩いて行く。


その姿は……なんだか悲しかった。
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