桜が咲く頃に、私は
残り一時間半。


布団の中。


「夢ちゃん、ありがとうね。私なんかをここにおいてくれて」


「何を今更言ってるの……お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなんだから……一緒にいるのは……当然でしょ」


今日は余程眠いのか、言葉も途切れ途切れに返事をする夢ちゃん。


優しく頭を撫でながら、夢ちゃんが眠るように。


「強く……生きてね」


夢ちゃんの身体から力が抜けて、スースーという寝息が聞こえ始めた。


だけど私は夢ちゃんを撫でたまま。


15分ほど夢ちゃんにお別れをした私は、起こさないようにそっと布団を出た。


パジャマから服に着替えて。


そして私のバッグの中に隠しておいた手紙を枕元に置いた。


「今までありがとう。さようなら……夢ちゃん」


そう呟いて、私は家を出た。


出来るなら、夢ちゃんの温もりを感じたままこの命を終わらせたい。


でもそれは、夢ちゃんに私の死の後始末を押し付けてしまうから嫌だった。


だから私は夜の街に出た。


私が生きたこの街にお別れをしながら。


死ぬとわかって空が歩いたこの道。


私はきっと幸せなんだろう。


死を悲しんでくれる人だけじゃなくて、死んだ後も待っていてくれる人がいるのだから。
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