桜が咲く頃に、私は
『目を閉じてても何も見えないぞ。ほら、見てみろよ。早春が生きた世界を』
ふと、そんな声が聞こえたような気がして、私はゆっくりと目を開けた。
夜中だというのにまだ明るい街。
悲しみや苦しみを抱えて歩く人達。
だけど、時々感じる幸せが、また頑張ろうと思わせてくれるんだ。
「空、迎えに来てくれたの? もうそんな時間?」
『そうだな。残された時間はもうない』
「そっか。私は……ちゃんと生きられたかな。私が生まれた意味は……あったかな」
心残りは……長く生きられなかったことくらい。
後は、私に出来ることはもう全部やった。
『意味なんてのは、残った人達が見付けてくれる。早春は必死に生きた。それでいいだろ?』
「うん……そうだね」
私が頷くと、目の前の空が手を差し出した。
それを見てフフッと笑った私は、小さく呟いた。
「ねえ、そっちに行ってもいい? もう、行くところがないんだ」
『ああ。行こう早春。それと……ハッピーバースデー』
空の手に触れた瞬間、私の身体から力が抜けて。
眠りに落ちるよりも早く、闇の中に沈む感覚に包まれた。
誰かが私を呼ぶような声が聞こえたけど……もう、私は戻れなかった。
2月10日、0時。
私の命の灯は……16歳の誕生日を迎えると同時に消えた。