桜が咲く頃に、私は











『……さん、桜井早春さん。お目覚めですか桜井早春さん』


その声に驚き、目を開けた私は、目の前に降り立つあの天使を見た。


相変わらず際どい格好をした、天の使いとは思えない天使。


そして、死んだあの日にやって来たと同じ雲の上の空間。


『いかがでしたか? 生き返った僅かな時間で、あなたがやるべきことは出来ましたか? 満足出来ましたか?』


「……生き返らせてくれたことは感謝してるよ。本当は私も空も、あの時死んでたんでしょ? 余命なんか無かったのに、少しだけでも人生の続きをさせてくれてありがとう」


私の言葉に、天使は驚いたような表情を浮かべて。


そして優しく笑ってみせた。


『気付かれていたんですね。以前、ここに来た時のあなたと、今のあなたを見比べれば、私も命を与えた意味があったと思えます。私のただの気まぐれと思われてもおかしくない行為を、あなたは意味のあるものにしてくださいました。こちらこそ感謝いたします』


「……大切な人達と一緒に、人生を歩めなかったのは心残りだけどね。こればかりはどうしようもないよね」


目の前にある、どこまでも続く長い階段を見上げて、私は深呼吸した。
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