桜が咲く頃に、私は
桜が咲く頃に、私は
私は……遠い昔のことを思い出していた。


大切な人達の死を、何度も見送って来た。


まだ幼かった私には、その都度心が引き裂かれそうなくらいに辛くて、何度も泣き喚いて。


だけど、今度はいよいよ私の番だ。


「おばあちゃん、わかる? 皆来てくれたんだよ」


病院のベッドの上で、子供達、そして孫達に囲まれて、皆の顔を見て笑った。


最近では、呼吸をするのも辛くて、声を出すことも辛い。


「またこの時計止まってる。おばあちゃん、どうしてこんなのを大切にしてるの? 新しいの買えばいいのに」


「その写真誰? 若い時に死んだっていう、おばあちゃんのお兄さん? じゃあこれおばあちゃん? あれ? でも、だったらもう一人は?」


孫達が、私のフォトフレームを手に取って、不思議そうに首を傾げている。


私の……大切な家族。


「私の……お姉……ちゃん」


やっとの思いで出せた声も、酸素マスクの中に消えて。


手だけがそれを求めるように少し動いた。


「この写真はね、おばあちゃんの15歳の誕生日に撮った大事な物なの。おばあちゃんが生きる為に、沢山の物を遺してくれたお兄さんと……お兄さんが亡くなった後に、おばあちゃんを大切にしてくれた……お姉さん」
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