桜が咲く頃に、私は
「なんだよそれ。私は暇潰しかよ。ま、それくらいに思ってくれてた方が気が楽だけどさ。てか、翠の家に泊めてよ。おばさんに見付からないようにこっそりさ」


ストローに口を付けてドリンクを飲むけど……コーラにしなきゃ良かったな。


どうしても昼間の深沢を思い出して笑ってしまう。


「無理だっての! 早春が前に何度か忍び込んでたのがバレて、毎日ホウキを持って玄関に出て来るし、兄貴なんてあんたがいるんじゃないかって部屋を覗きに来てんだから! キモすぎて吐きそうになるんだけど!」


翠のお母さんには嫌われて、兄貴には襲われるかもしれない……って、危険すぎる家になってるじゃない。


「そりゃあ……無理だな。つっても、あと五日どうにかしないと、もうお金があんまりないからなあ」


「バイトする? それか手っ取り早くパパ活とか、やっぱり広瀬に股開いて泊めてもらうとか」


「全部却下」


バッサリと翠の提案を切り捨てると、小さく「だよねぇ」と呟いて、二人で窓の外をぼんやりと眺めた。


道行く人達は、一体どこに向かって歩いているのだろう。


それぞれに人生があり、目標があってそこに向かっているのだろうか?


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