桜が咲く頃に、私は
「ちょっと! 待ちなさいよ! もう大学に行かないってどういうこと!?」


店内の音の方が大きくて、掻き消されそうになる女性の声が本当に微かに聞こえて。


「お前には関係ないことだろ! もう放っておいてくれよ! 俺の邪魔をするな!」


女性に腕を掴まれた男性が、それを振りほどこうとするけど、女性は負けじとしがみつく。


「おーおー、目の前で修羅場が始まったか? ほら、こういうの見てると『生きてるわー』って思わない? 青春だねぇ」


「これが生きてるってことなら、私は別にどうでもいいかも。てか……あれ?」


鬱陶しそうに腕を振っている男性。


メガネを掛けていて、髪を下ろしているから良く見なければ気付かなかったけど。


「あ、天川空」


私がそう呟くと、まるで声が聞こえたかのように、窓の向こうの天川空も驚いた様子で。


「え、マジで? あ、ホントだ。なんか面白そうな展開なんですけど。ほら、最前線で痴話喧嘩を見るチャンスだよ、行くよ」


野次馬根性丸出しの翠が、ドリンクを飲み干して食べかけのハンバーガーをバッグに入れて、立ち上がり私の手を引いて外に出た。


いや、私は別に興味がないんですけど!
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