桜が咲く頃に、私は
「いや、話すことは何もない。丁度良かった。俺、こいつと付き合ってるから。というか結婚するから、大学を辞めて働くんだよ。悪いな花子」


こいつは一体何を考えているのか、私の手を取り、抱き寄せて女性の前に立たされたのだ。


「え!? ちょ、こんなとこで何言い出してんの!? あんた頭おかしいんじゃねぇの!?」


全く話が見えない中で、わけのわからないことを口走る天川に戸惑う。


当然、女性は目を見開いて私を見ている。


「な、名前で呼ぶな! それに、そんな嘘で私が納得すると思ってるわけ!? こんな……まあ、ちょっとは可愛いけど。いや、こんな高校生と結婚とか! 私をバカにするのもいい加減にしなさい! 今適当に作った話で、私が『はいそうですか』って言うと思った!?」


まさに火に油を注ぐとはこのことか。


この女性の言うことはごもっともで、私もどうすればいいかわからない。


「……この子は桜井早春。昨日から俺と一緒に住んでるんだ。俺の帰りをここで待ってたんだって言っても信じないよな?」


そう言うと、天川は私の肩を掴んで半回転させると、そっと顔を近付けて来た。


「今日の分」


そして、唇を重ねた。


肩を持つ手に力が入った、少し強引なキス。


道行く人達がざわついているのが何となくわかる。


だけど、私の頭の中は混乱していて、ぐちゃぐちゃで何も考えられなくて。


私、なんでこんなことしてるんだろう。


という疑問しか浮かばなかった。
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