桜が咲く頃に、私は


「お、お邪魔します……」


「あ、ああ。今は誰もいないから、適当に座ってろよ」


翠の強引な謝罪要求に屈した天川は、ついた嘘の通りに私を家に泊めることで話をまとめて、私は天川のアパートに来ていた。


色んな家を転々としていたから、こういうボロアパートでも何の抵抗もないし、普段なら遠慮なくくつろぐんだけど……なんと言うか、天川と私は特殊な関係だから、いつもとは勝手が違った。


「今はってことは、誰かと一緒に住んでんの? バンドマンって女を取っかえ引っ変えして、感覚が麻痺しててどんな女とでも寝れるって聞いたけど」


窓際に腰を下ろし、体育座りをして部屋の中を見回す。


「バーカ。妹だよ。ていうかさ、お前、本当に家出少女だったんだな。いつもどうしてんの? 食べ物とか服とか」


「ん、お父さんから毎月10日にお小遣いが振り込まれるから、それで何とかって感じかな。泊まるところがない日はネカフェか漫喫。無料のドリンクもあるし。体操服が部屋着代わり? まあ、ジーンズとシャツだけはバッグに入ってるけどね」


「……両親は心配してないのかよ。お前がそんな生活してるって知ってんの?」


やたら心配してくるじゃない……と、思ったけど、そう言えば天川も妹と二人でここに住んでるの?


何となくだけど、それ以外の「におい」がしないから不思議に思っていたけど。
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