桜が咲く頃に、私は
「ほら、飲めよ。後、見えてるぞ。パンツ」


ペットボトルのお茶を手渡されて、そんなことを言われたけど、「キャッ!」とか言って恥ずかしそうにするとでも思ったのかな。


広瀬じゃあるまいし。


「別にいいよ。見えても減るもんじゃないし。好きなだけ見れば?」


「可愛くねぇの。俺も別にいいよ。見ても得するわけじゃないし」


そう言い、私の横に腰を下ろした天川。


しばらく沈黙が流れた。


お茶を飲む音だけが聞こえて、何となく気まずくて、バッグの中に入れたハンバーガーの残りを取り出して食べ始める。


「あ、あのさ、さっきは悪かったな、その……」


天川が口ごもって言い始めた時だった。


「ただいまー。あれ? お客さん? って、嘘でしょお兄ちゃん……女の子じゃないの! それも……可愛い女子高生! いやらしいんだ!」


ドアが勢いよく開いて、セーラー服でレジ袋をぶら下げた女の子が入って来たのだ。


どう見ても私より年下で、中学校の制服を着ているから中学生であることは間違いない。


「あ、えっと、妹の夢。で、こいつは桜井早春。今日泊まるから、そのつもりでよろしく」


「え!? 泊まるって何事! あ、天川夢です。いつも兄がお世話になってます。てか、それならそうと早く言ってよ……ほんっと、気が利かないんだから」
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