桜が咲く頃に、私は
「他に……何があるんだよ。大学に通って勉強しても、長くても半年後には死んでしまう。だったら俺がやることは、少しでも多くのものを夢に遺して死ぬことだ。死ぬ時期がわかってるなら、行動もしやすい」


あの時、天使の前で余命を主張した天川は、瞬時に遺される夢ちゃんのことを考えたのだろう。


私達が死んだあの日、こいつはバンド仲間と一緒にいた。


自分の趣味に時間を費やせることが出来ていたのなら、夢ちゃんに言った、お金がないというのは嘘なのだろう。


大学を辞める理由にお金のことを言えば、夢ちゃんも納得せざるを得ないとわかっていたに違いない。


それはきっと、間違っていなくて。


でもやっぱりわからない。


「なにそれ。つまりあんたは、死ぬために生き返ったわけ? 私は生きる意味を知りたいから生き返ったんだよ。あんたは自分の人生を諦められるほど、完璧で満足の行く生き方して来たってこと?」


私の言葉に、夜空を見上げる天川の表情が少し変わった気がする。


「あんたはこの半年で死に向かうかもしれないけど、私は精一杯生きてやるから。死んだ時にあんたに言ってやるよ。『私の人生は、生き返ってからが一番幸せだった』ってさ」


死に向かうなんて冗談じゃない。


とはいえ……空っぽの私がどうすれば、幸せな日々を送れるのだろうか。
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