桜が咲く頃に、私は
そう言われても……私と空はそういう関係じゃないし、彼氏は広瀬ってことになってるわけだし。


「それには理由があるから仕方ないだろ。翠だってわかってるから、私と空の関係に何も言わないんしょ?」


「私はね! 考えてみなよ。目の前でトラックに轢かれて、目ん玉ポーン! 内臓ドバァーッ! 脳みそグチャーッ! ってなってた人間が、いきなり元通りになって生き返ったんだよ? 信じたくなくても信じるっての。でも、他の人は違うからね。早春がやってることは、絶対に理解されないから」


だからと言って、やめるわけにはいかない、生きる為の条件なわけだし。


「大丈夫。あれは薬みたいなもんだよ。空だって……そう言ってるんだから」


「……あんたがそう言うならそれでもいいけど、本当に、1ミリもそんな気持ちがないって言い切れる? 冷静に見たら天川って結構かっこいいしさ」


うーん……命を繋ぐ為のキスが、嬉しいわけではないけど……嫌というわけでもない。


私にとっては朝の歯磨きと何ら変わらない行為なのだから。


そんな風に割り切ってるから何も思わなかったのにさ。


「広瀬にはバレないようにしなよ? あんたらまだしてないんでしょ? キスとかさ」


「それは……まだだけど」


私は後5ヶ月ほどの余命しかないし、広瀬から進展させないなら、私からは進展させないつもりだった。


それなのに、どうして屋上であんなことを言ったんだろう。
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