桜が咲く頃に、私は
そんな中で、空が部屋の隅に視線を向けて小さなため息。


「……俺の客だよ。あれ、やってた時のな」


視線の先にあったのは、ケースに入ったままのギター。


あの日、トラックに轢かれて壊れたままの姿で、忘れ去られたかのように置かれていた。


「そう。でも、それだけじゃないよね? お兄ちゃんは早春さんが好きだよね? 見ててわかるよ。早春さんがうちに来た日は、凄く嬉しそうだもん」


「え? いや、夢ちゃん、それはないんじゃないかな? もしも嬉しそうだとしてもそれは、きっと手間が省けるだけで……」


いきなり何を言い出すんだと、慌てて否定してみせた。


そもそも、私達のキスにそういう感情はいらないと言い出したのは空だ。


ただの延命処置……なんだよね?


「はぁ……夢、お前は知らなくてもいいことだ。今はまだわからなくても、大きくなったらきっとわかる。だから……」


「そうやっていつも子供扱いして。私はさ、お兄ちゃんと早春さんが付き合ってるなら、いずれ結婚して早春さんがお姉ちゃんになるんだって思ってたのに。はぁ……」


物凄くガッカリした様子で、首を横に振った夢ちゃんに、私はなんて言えば良いのだろう。
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