幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
だからなのだろう、樹山と一緒にいても、それ自体に緊張はしない。高校を卒業して以来、10年ぶりの再会だから、その意味でのぎこちなさはあるかもしれないけど。
でも、新幹線のホームで会ったのが樹山でなかったら、実家に帰る前に話の練習台になってもらおう、なんて考えなかっただろう。彼だったら、こんな話にも嫌な顔をせず付き合ってくれる気がしたのだ。
──けれど、料理が椀盛りからお造り、焼き魚から季節野菜の煮物へと進んでも、樹山は私に「なんで仕事辞めたの?」とあらためて聞いては来ない。ホームでの様子からすると、気になっているには違いないのに。
考えているうちに、天ぷらに茶わん蒸し、季節の筍ご飯とお味噌汁も食べ終えた。
そしてデザートの甘味、黒蜜わらび餅と抹茶ティラミスが出てくる。
最後の最後まで美味しい料理を味わったけど、何も聞かないのなら、なんだって樹山は私を食事に誘ったのだろうか。
ほうじ茶をすする樹山に、私は思い切って尋ねた。
「ねえ、樹山」
「何?」
「気になってないの?」
「なにが」
「……私がなんで、東京での仕事を辞めたのか」