幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
「気になってるよ」
「だったら」
「なんで聞かないのか、って?」
湯呑みを置いて、樹山がこちらをじっと見た。再会した時に私を見ていたのと同じ、まっすぐな眼差しで。
「穐本が話したいなら聞くよ。でもさっき、あんまり話したくなさそうだったから」
「……」
そうはっきり言われると、言葉が続かない。
とはいえ、こんな豪華なお昼をご馳走になりっぱなしというわけにはいかない。たとえ彼に、私を問い詰める意図がなかったとしても。
「ごめんね、気を遣わせて」
「いや全然」
相変わらず鷹揚に、樹山は応じる。
それに甘えてばかりはいられない。
チチチ、と何かの鳥が鳴く声が、静寂の中に響く。
「──実は、勤めてた事務所をクビになったの」
静けさに負けないよう、声を張った。最後まできちんと話すための、気合い入れの意味もあった。
「クビ? 穏やかじゃないな。何があったんだ」
私はぽつぽつと、順を追って話をしていく。
新卒で入ることができた建築事務所は、中規模だけれど、施主の依頼を丁寧に反映した仕事をすることで評価の高い所だった。事務所代表の一級建築士の先生に、二級建築士のアシスタントが二人、受験浪人をしながら助手を務める若手が数人。