幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 アシスタントだった先輩二人のうち、一人は6年前に一級の資格を取り、2年前には故郷に戻って自分の事務所を開いた。まだ30代前半での独立で、私も頑張らないと、と思わされる目標の人だった。

 そして私自身は、受験浪人で入所したけれど、仕事しながら懸命に勉強して4年前に二級建築士となった。一級はさすがに難しくて、まだ合格できていない。
 仕事しながら勉強を続けるのは大変ではある。けれど夢の独立のために、と思えば睡眠時間が少なくても、参考書を買うために食費を切りつめても平気だった。そんなふうに、入所してからの年月を精一杯頑張ってきたのだ。

 それが一瞬で水の泡になるなどと、どうして予想できただろう。

 きっかけは今年の4月初日だった。新卒の女の子がひとり、新しい助手として入所してきたのだ。中邑(なかむら)ゆかりと名乗ったその子は、誰が見てもおとなしそうな、そして可愛らしい女性だった。
 控え目で聞き上手、話し上手な彼女は、すぐに皆と打ち解けた。

 そして先生ともよく話をしていた。誰もが、それは勉強熱心の賜物だと信じて疑わなかった。もちろん私も。

 そうじゃなかったのだ、と知ったのは5月中旬のある日。
 仕事が終わって事務所を出て、駅に向かっている途中。私は忘れ物を思い出した。
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