幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。


 チチチ、とどこかでまた鳥が鳴いた。

「つまり、二人が不倫してた現場を見ちまったってことか」

 確認するように尋ねる樹山に、私はうなずいた。

 今年48歳の先生は既婚者だ。子供はいないけど、奥さんを大事にしている様子だったから、愛妻家だと思っていた。
 そうではなかった、というのと、相手が後輩の女の子だという事実で、二重にショックを受けている私に対し、二人は堂々としたものだった。

 恥ずかしがる様子もなく服を整えて、先生が先に立ち、ドアを開けて立ち尽くす私の前に二人で近づいてきた。そして。

「このことは誰にも言うなって言われたわ。もししゃべったら、不倫をしていたのは君の方だって言うよ、って」

「はあ? なんだそれ」

 ショックを受けた頭でも、無茶苦茶なことを言われているのは理解できた。だから反論したけれど『もしそういうふうになった時、世間が信じるのはどちらか考えてみたら、わかるだろう』と言われて、口ごもった。

 実績のある建築家と、まだ二級のアシスタントである私。
 立場が弱いのは私には違いない。そして追い打ちをかけるように先生は言ったのだ。

『中邑さんは、衆議院議員の中邑篤俊氏のお嬢さんだ。騒ぐと君のためにもならないよ』
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