幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
「中邑って、与党の幹事長を務めたことのある?」
「そう……そこまで言われたら、もう黙っとくしかないって感じでしょ」
温和な先生の、見たことのないような意地悪い表情と、中邑さんの勝ち誇ったような笑みが焼き付いている。
さらにその後、事あるごとに後輩がやるような雑用や残業を押し付けられるようになり、自分の仕事が進めにくくなった。周りの不審な目にも先生や後輩は当然説明などせず、私も何とも言いようがなくて、どんどん居づらくなった。
辞めると決めるまでに、2週間もかからなかった。
他の人にはきっと、不始末をしたとでも思われていただろうけど、仕方ない。
踏ん張って留まったとしても、あの事務所にいる限り、まともな仕事は回してもらえないだろうから。
退職して、住んでいたアパートを引き払い、地元に戻ることにした。幸い、故郷に近い所で、建築士を募集している事務所があったのだ。迷ったけれど、やっぱり私は、建築の世界で仕事がしたかった。
再就職先は決まったものの、理不尽さに泣きたくなる気持ちは胸に長く残って、なかなか消えずにいた。それをまた思い返してしまっていた新幹線のホームで、樹山と再会した──というわけだった。