幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
「最っ低な奴だな、その先生っての」
全部話し終えた後、憤りもあらわに樹山がそう評した。
事情を正直に話したのは今が初めてで、だからこそどういう反応をされるか不安だったけど、思った通り、樹山は最後までしっかり聞いてくれて、なおかつ怒ってくれた。
「訴えてやろうとか、思わなかったのか」
「全然思わなかったわけじゃないけど……あの二人が不倫関係っていう証拠を持ってたわけじゃないし、私ひとりが見たことだけじゃ限界があると思って」
それに、事実無根とはいえ、不名誉な噂を広められるのは避けたかった。この業界は広いようで狭い。ふしだらな女だという評価が付いたら、家庭的なイメージの強い戸建ての案件には関われなくなるかもしれないし、それ以外の案件でも、悪い印象の付いた建築士では使ってもらえないかもしれない。
そう考えると、とても自分の正当性を声高に主張する気にはなれなかった。
「度胸がないでしょ、私って……笑ってもいいよ」
自嘲ぎみに言うと、樹山は憤りをおさめないままに「笑うわけないだろ」と返した。
「どう考えたって、悪いのはその二人だろ。なのに目撃した穐本を脅すなんて、逆切れもいいとこじゃないか。もっと早く知ってたらいい弁護士を紹介してやれたのに。今からでも手配しようか?」